活動の紹介

生活困窮者の立て直しのきっかけに。食料品を循環しながら地域に助け合いの輪を作る「フードバンク」。

▲今回インタビューしたのは、「フードバンク んまんま」の発起人である松下さん

その国の文化水準や生活水準と比較して、困窮した状態にある「相対的貧困」。雇用に就きながらも十分な所得を得られていない「ワーキングプア」など、現代の貧困を取り巻く問題は、時代の移り変わりとともに複雑になってきています。さまざまな制度の狭間で、「明日食べるものにも困っている人たち」が数多く存在しています。近年、世界中で広がっている食料銀行を意味する「フードバンク」は、日本国内でも徐々に浸透してきています。今回は、沖縄県宮古島市において「フードバンク んまんま」を立ち上げ、運営している松下智美さんにインタビューしました。

松下智美(まつした ともみ)
愛知県出身。知的障害者グループホームにて主任や施設管理者を経験し、2016年に宮古島へ移住。一度は福祉の仕事から離れていたが、2018年に宮古島市社会福祉協議会へ入社。地域福祉コーディネーターとして「フードバンク んまんま」を中心に、さまざまな事業に携わる。

この活動はこんな人におすすめ

・貧困問題に関心がある
・食品ロスについて関心がある
・地域のつながりを大切にしたい

明日食べるものも困っている人たちを助ける手段がなかった

活動を始めたきっかけを教えてください。 

生活困窮者を支援する、コミュニティーソーシャルワーカー(以下、相談員)から、「明日、食べるものも困っている人たちを助けたいのに、助ける手段が無い」という話を聞き、2019年10月に「フードバンク んまんま」を立ち上げました。世界中でフードバンクが徐々に広まっているのは知っていたのですが、日本では市町村によってフードバンクの存在にバラつきがありました。

当初、企業から寄付してもらうことを想定していたのですが、なかなかスムーズにいかなかったため、地域の方たちへ呼びかけることになりました。当初は社会福祉協議会の職員などを中心に細々と活動を続けていましたが、2020年10月に日本郵便さんからお声かけをいただき、宮古島市内にある全ての郵便局にフードボックスを設置していただけることになりました。今ではホテルや銀行など設置場所も広がり、様々な食料品を地域の方からご寄付いただいております。

フードバンクを通して、地域に助け合いの輪を作りたい

具体的にどんな活動をされていますか。

活動の目的は、「食料品を集めて配ることを通して、地域に助け合いの輪を作ること」です。常温保存できる食料品であれば、市内に設置してあるフードボックスに入れるだけで、気軽に寄付をすることができます。集まった食料品は週に1回ほどのペースで、社会福祉協議会の職員が回収します。そこから仕分けを行い、相談員が生活困窮者のお宅へ持って行きます。寄付していただいた食料品は一つ一つ、賞味期限、どこのボックスに入っていたか、どの相談員を通じて、いつ、誰に渡したかなど、細かな情報もしっかりと記録しています。

寄付される食料品はどのようなものが多いですか

缶詰、レトルト食品、お米、お菓子など、バラエティーに富んでいます。1つ1つがバラバラなので管理の大変さはありますが、それぞれに合った食料品を選んでお渡しできることがメリットだと思っています。例えば、高齢の方なら開けやすいものやお粥など、お子さんがいるご家庭であれば、ボリュームがあるものやお菓子が喜ばれます。皆様のおかげで、その方に密着した支援が出来ていると思っています。

▲寄付された食料品は一つずつ職員が記録し、細かく管理されている

潜在的なニーズはまだまだある。困っている方は相談して欲しい

現在、活動をする上での課題はどんなことですか。

「フードバンク んまんま」の活動を、地域に浸透させることですね。徐々に認識されるようにはなってきていますが、さらに多くの方たちに趣旨をご理解いただき、寄付と配布が活発に行われるようにしたいです。

あとは、フードバンクを利用したい方の潜在的なニーズはまだまだあると思っているので、もっと声をあげてもらえたらと。沖縄県ではひとり親世帯が多く、DVなどの問題も少なくありません。フードバンクでは、生活保護受給者だけではなく、制度の狭間にいらっしゃる方にも届けていきたいと思っています。生活保護の申請はハードルが高いと感じられる方もいらっしゃると思うのですが、食料品の支援であればもう少し相談しやすいのかなと。困っている場合はぜひ一度相談に来て欲しいです。

フードバンクを通して、地域に助け合いの輪を作りたい

この活動をしていて良かったと思う瞬間を教えてください。

相談を受けていた生活困窮者の方が、フードバンクを利用しながら生活を立て直したときです。水道や電気などのライフラインさえ止まった状態から、生活保護を経て就職した方がいらっしゃいました。その方の頑張りに感動しましたし、私自身も励まされることが多かったです。

そして、食料品の寄付をくださる方の気持ちにいつも感動しています。宮古島市ではワーキングプアと呼ばれる方は少なくありません。そんな中でも、他に困っている方のために毎月たくさん寄付してくださる方がいて。一度、「なぜ、そこまでしてくださるのですか?」と聞いたことがあったのですが、「特に意味はないわよ」とおっしゃっていて。助け合うのが当たり前という雰囲気、自分が困っていても他人に手を差し伸べるという雰囲気というのは、この島の素晴らしいところだなと。フードボックスなので、直接お話することはほとんどないのですが、入っている食料品にもその方の思いやりを感じています。パスタと一緒にパスタソースをつけていると「こうやって食べて欲しいんだな〜」とか、お菓子が入っていたら「お子さんに渡して欲しいんだな〜」とか。食べ物にもそうやって気持ちが込められているのが良いなと思います。

▲集まった食料品は社会福祉協議会の職員が丁寧に仕分けを行っている

地域の人たちの応援の形がフードバンク。自信を持って生きて欲しい

活動をする上での目標やゴール・今後の活動について教えてください。

いずれはこの活動が必要なくなるくらい助け合いの輪が浸透するのが一番ですが、まずは皆さんの幸せの底上げができたらと。生活困窮の方は、「どうせ自分なんか…」と諦めを繰り返しているので、自信がなくなり、自分の価値を低く見積もっている方が多くいらっしゃいます。そういった方たちをフードバンクを通じて励ますことが出来たらいいなと。「地域の人たちはあなたのことを見捨てていないよ、あなたを応援しているんだよ」と。そして、自信を持って地域の一員として生きていってもらえたらいいなと思います。

そして、地域の人たちや企業団体と繋がり、助け合いのネットワークを広げていくことも必要です。福祉に関わらずさまざまな業種の人と繋がり合い、得意なことを提供し合って、豊かな相乗効果を生み出していきたいと思っています。

フードバンク んまんま(社会福祉法人 宮古島市社会福祉協議会)

宮古島市からの委託事業「地域における生活困窮者支援等のための共助の基盤づくり事業」の一環として行っている活動。宮古島市内各所14カ所(2021年9月現在)に設置してあるフードバンク、もしくは宮古島市社会福祉協議会にお持ち込みいただくことで食料品の寄付ができる。現金・商品券での寄付も受付中。他にも、企業や学校などと一緒に、食品持ち寄りを行う「フードドライブ」の活動も。TEL:0980-77-8661(宮古島市社会福祉協議会)