21007。これはただの数字の羅列ではありません。日本における令和3年の自殺者数です。(警察庁調べ)たった1年で21007人の尊い命が自殺によって失われました。その原因を何かに絞ることは不可能ですが、心理影響として孤独が関係している確率は高いでしょう。「誰かに相談できていたら」「誰かが話を聞いてくれていたら」――悩みや問題を抱えたとき、信頼できる人に確実にアクセスできる仕組みがあれば、救える人がいるかもしれない。
今回は、そんな思いから立ち上げられた『特定非営利活動法人あなたのいばしょ』の活動について、理事長である大空さんにお話を伺いました。
大空 幸星(おおぞら こうき)
特定非営利活動法人あなたのいばしょ理事長。1998年生まれ、愛媛県松山市出身。「信頼できる人に確実にアクセスできる社会の実現」と「望まない孤独の根絶」を目的に、NPOあなたのいばしょを設立。孤独対策、自殺対策をテーマに活動している。内閣官房孤独・孤立の実態把握に関する研究会構成員、内閣官房孤独・孤立対策担当室HP企画委員会委員、内閣官房こどもの居場所づくりに関する検討委員会委員としても活動。慶應義塾大学総合政策学部在学中。
この活動はこんな人におすすめ
・人が好き、話を聞くのが好き
・スキマ時間で誰かの役に立ちたい
・子どもが好き
・人の気持ちに寄り添える人
問題を抱えたときに、誰かに出会って救われることを奇跡としたくない
活動を始めた時期ときっかけを教えてください。
僕自身の原体験がきっかけです。
ディテールは控えますが、以前、家庭や学校のことで悩んで大きな孤独を感じ苦しんでいたことがありました。
僕は、奇跡的に恩師によって救われることができましたが、同じように悩んで孤独を感じる人は他にもたくさんいます。
そして、そういった人々の全員に奇跡が起きるとは限りません。話したくても話せない、頼りたくても頼れない、『望まない孤独』を抱えている人々のために、頼れる人に確実にアクセスできるような仕組みを作りたいと考えて始めました。それが2020年3月のことです。
具体的にどういった活動をされていますか。
あなたのいばしょでは、24時間365日年齢性別関係なく誰でも無料で匿名利用できるチャット相談窓口を設けています。
ホームページへアクセスすると、すぐに相談することが可能です。主に『いばしょ相談員』と呼ばれるボランティア相談員の方の協力によって成り立っています。
今では26カ国に約600名の相談員がおり、海外在住の日本人ボランティアのおかげで、これまで実現が難しいとされていた、深夜~早朝の時間帯にも相談が受けられるようになっています。
ボランティアに応募する方はどういった方が多いのですか。
ボランティアも多種多様な人材が集まっています。
資格や経歴は問わず、あまりハードルを感じずに、なにか手助けしたい協力したいと思ったら応募ができるように間口を広げています。
もちろん一定の基準はあり、それをクリアして研修を受けた相談員が日々対応しています。
相談が多くなる時期というのはあるのでしょうか。
夏休み明けがまさにそうですね。
子どもたちの自殺が増える時期でもあるのですが、寄せられる相談もぐっと増えます。
相談者の8割が10代、20代というのも関係しているのですが、やはり長期休暇明けというのは相談が増える傾向にあります。
“いばしょ”を増やしていくために、根本から孤独をなくすための活動を
チャット相談の他にも行っている活動はありますか?
先述したチャット相談窓口をメインの活動としてスタートしましたが、現在は他にもデータ活用事業と孤独予防教育プログラム事業という事業も行っています。
データ活用事業について教えてください。
望まない孤独は、自殺やDV、虐待といった社会問題を引き起こす可能性があります。それらの社会問題を、データやテクノロジーを用いて解消できないかと始めたのがデータ活用です。
相談データはメンタルヘルスの非常に貴重なデータです。それを分析することによって、未然予防や根本解決を行うための研究活動に繋げています。行政や学校や研究者、メディアと連携することによって社会問題への対処、アプローチ方法を増やしていければと考えています。
また、相談に対する緊急度の判定や相談員のスキルの向上にも、データから導き出される分析結果は役立ちます。
どういった相談がどういった時間帯に多いのかであったり、場所と日時の因果関係であったり…。
また、今までのデータに基づいて、どういったメッセージに対して優先度を上げて対応すべきかなども判別がつきやすくなります。
もちろん相談内容は最も守るべき大切な情報ですので、プライバシーポリシーに従い厳重に管理した上で活用をしています。
孤独予防教育プログラム事業について教えてください。
チャット相談窓口という場所を設けるほかに、孤独に対する理解を深め、自分と周りの人の孤独に気づいて、適切に対処できるようになることが非常に大事であると考えました。
理解と対処は学びから生まれます。だからこそ、そのための教育プログラムを開発しました。大人(企業)向けと、子ども(学校)向けのプログラムがあり、大人向けの孤独予防教育プログラム(LP)は、職場における孤独の重症化と、それに伴うメンタルヘルスの問題を予防することを目的としています。
一人でも多くの人に寄り添うために、一人でも多くの人に知ってほしい・関わってほしい
課題や困っていることがあれば教えてください。
大小問わず課題や困っていることはありますが、一番は『いばしょ相談員』の数ですね。
毎日の相談は非常に多く寄せられ、対応に逼迫しているような状況です。その相談に対して、どれだけスピードをもって対応していけるかというのが課題になっていて、それを解決するためには相談員の数をもっと増やしていきたい。
根本解決という点からみると、データ活用事業や教育プログラム事業活動も非常に重要です。しかし、それらの効果を待たずして、望まない孤独に苦しめられている人はこの瞬間にも大勢います。
寄せられる相談の中には、「話を聞いてもらえるだけで心のつかえが少し取れた」「明日に少しだけ希望が持てた」といった人も多いです。
それを考えると、取りこぼすことなく一人でも多くの人の相談を受けたいと思います。
他にもチャットボットを活用して相談対応にあたるなど、技術的な面でもより力を入れていく必要はあると考えています。
私たちはどのような関わり方ができますか。
個人の方ですと、やはりボランティア相談員として支えていただけると大変助かります。
課題のところでもお話しましたが、約600名の相談員がいても逼迫するほどの相談が日々寄せられていますので。スキマ時間にリモートで活動できますし、PCと落ち着いた環境さえあればすぐにでも始めることができます。
また、寄付でのご支援も受け付けています。
相談員の不足と関わってくるところではあるのですが、教育や研修を含めて、相談員を1人養成するには約60,000円が必要になります。
寄付に依存した活動をしていくというのは考えていませんが、一方で寄付により成り立っている部分があることも事実です。経済合理性はないけれども、社会にとっては必要となる活動において、寄付はやはり重要な要素になってくると考えています。
今後の展望や目標について教えてください。
これは活動の当初から変わらず、一人でも多くの人の苦しみに寄り添って、その人が救われる頼みの瀬になることです。
自ら命を断つほど悩んでいる方、虐待や暴力を受けながらそのことを誰にも話せない方など、全ての望まない孤独を抱えている方が、確実に信頼できる人にアクセスできる場所であり続ける……そのために必要なことは、何でもやっていこう、というぐらいの姿勢で取り組んでいきたいと考えています。